ギャンブルをやめるには“空白を埋める”ことが大切
ギャンブルをやめたい。
そう思っても、実際にはなかなか行動に移せなかったり、やめてもすぐに再開してしまったりする──。
この経験、きっと多くの人が持っていると思います。
そして、そこには「空白」という大きな落とし穴があります。
ギャンブルをやめた後、空いた時間、空いたエネルギー、空いた感情。
その「空白」を埋める準備ができていないと、脳は自然に、かつて快感を得たギャンブルに引き寄せられてしまうのです。
この記事では、ギャンブルをやめるために大切な「代替行動」について、なぜ必要なのか、どんな考え方で選べばいいのかを解説していきます。
- なぜ「空白」が危険なのか
- なぜ代替行動が「やめるため」に必要なのか
- 新しい快感回路を作ることがギャンブル脱出につながる理由
STEP確認
この記事はギャンブル依存症から抜け出すための「STEP4-1」です。
シリーズの他の「STEP 4」記事もあわせて参考にしてみてください。
- STEP 4-1【代替行動の目的とは?】 ←今ココ
- STEP 4-2【代替行動を選ぶ】
- STEP 4-3【代替行動を習慣にするコツ】
- STEP 4-4【代替行動が続かない】
- STEP 4-5【代替行動を始める準備】(STEP4まとめ)
シリーズ全体の流れを確認したい方はこちら。
なぜ代替行動が必要なのか?4つの理由
1.脳には「空白を嫌う性質」がある
人間の脳は、「何もしない状態」を好みません。
これは空白の原則と呼ばれ、脳は空白をつくるとそれを埋めようとすると言われています。
例えば
- 3×5=□
- 1.2.□.4.5.6
- ジグソーパズルの最後のピース
この空白の隙間を無意識に埋めたいと感じてしまう性質です。
これは物だけでなく時間や情報も同じで、「ヒマ」という「空白」があると、そわそわして、落ち着きがなくなったり、何かしないと勿体ないと思ってしまいます。
だからこそ、やめた後に空白を作らないようにするのではなく、空白ができる前から「新しい行動」を流し込んでおくことが必要です。
2.脳は常に刺激や快感を求める
私たちの脳は、常に刺激や快感を求めるようにできています。
これは快・痛みの原則と呼ばれ、脳は快を求めて、痛みを避ける性質があると言われています。
何もせず空白になっていると、脳は快を求めて、自然と「過去に楽しかったこと」「快感を得られたこと」を思い出そうとします。
ギャンブルは、ドーパミン(快感をもたらす脳内物質)を手っ取り早く、強烈に分泌させる行動である。
それを知っている脳が、命令を出し、私たちの行動を支配してしまうのです。
つまり、何もしなければ、脳は過去の快感を求めてしまう。
だから、「新しい快感」を育てる行動を先に用意しておく必要があるのです。
3.ギャンブル依存の脳は「快楽モンスター化」している
脳が高刺激に慣れすぎている状態なので、通常の行動(散歩、読書、人との会話など)は「刺激が足りない=つまらない」と感じます。
これは「つまらない」のではなく、「刺激の基準値が狂っている」状態です。
例えるなら、辛い物ばかり食べて舌が麻痺して「普通の料理の味がしない」状態。一番美味しいものが辛いものと答える人はギャンブル依存と同じ現象になっていると言えます。
4.脳は同時に2つ以上のことをやるのが苦手
私たちの脳は、同時に2つ以上のことをこなすことが苦手です。
これは焦点化の原則と呼ばれ、意識は同時に2つ以上のことをとらえるのが苦手である。その為、焦点化が起こると言われています。
例えば
- 楽しいことと、嫌なことを同時に思い浮かべる
- テレビに集中しながら、他の人の話を聞き洩らさない
- スポーツで運動をしながら、晩御飯のおかずを考える
見ている、聴いているはずなのに、見えない、聞こえない。
これは焦点を当てている情報以外は遮断され認識されにくいということ。
これは脳の欠点ではなく、自分が見たいもの、聴きたいことといった、感じたいことを感じ取る為の安全機能と言われています。集中して、危険なことから注意散漫にならない為の機能です。
その結果、危険でなくても脳は2つ以上のことをとらえるのが苦手です。
つまり、新しい行動に意識を向ければ、ギャンブルの欲求は自然と目立たなくなる。
ここでも重要なのは、やめた後の「空白」をどうするかではなく、新しい行動に意識を先に向けることです。
代替行動で得られる4つのこと
1.我慢ではなく、育てること
最初はつまらないと感じても、続けることで脳が「この程度の刺激でも報酬が得られる」と報酬回路を再学習し始めます。
ギャンブルをやめるために必要なのは、「我慢」ではありません。
- 新しい行動
- 新しい刺激
- 新しい快感
これらを通して、脳にギャンブル以外の快感回路を育てることです。
たとえば──
- 読書をする
- 軽い運動をする
- 新しい趣味に手を出す
- 料理や勉強を始める
こうした行動が、脳内に「別の快感回路」を刻み、ギャンブルへの依存回路を徐々に薄めていく役割を果たします。
2.脳の快感回路は「新しい体験」を重ねることでしか育たない
私たちの脳は知識だけでは「新しい回路」は作られません。
これは「○○をやった方が得」と自分の意識や頭で理解していても、回路が作られていないので、脳は行動しようとはしません。
たとえば──
- 節約が大事とは分かるけどやる気がでない
- 勉強が大事とは分かるけどやる気がでない
- 賢い生き方が良いとは思うけどやる気がでない
これに対して実際に体験し、意外と簡単で楽しいなど、脳が快感という報酬を受け取ることで「節約=快感」と脳が理解して学習していきます。
こうなるとギャンブルと同様で、脳が「報酬」を欲しがるようになる、つまり無意識にやる気が出てくるようになります。(もちろんギャンブルほどの強い依存はありません)
3.報酬を「意識的に見つける」工夫
今後STEP4〜5で解説していきますが、「ちょっと気分が軽くなった」「終わった後にスッキリした」などの小さな変化に意識を向ける習慣を持つことが重要。
これは脳に“報酬信号”を送る訓練です。
脳が学習というよりかは、自分自身が意識して行うテクニックになります。
4.「快楽中毒」から「快感発見」への切り替え
ギャンブル依存脳は「強い刺激を待つ」受け身の脳。
脱出のプロセスでは、「自分で楽しいを見つけにいく」主体的な脳への切り替えが起こります。
つまらなくて当たり前。でも脳は変わる
「楽しくない」ことは異常ではなく、依存の副作用です。
最初は「味がしないけど健康的なごはん」を食べているような感覚かもしれません。
でも食べ続けることで、“自然な甘み”や“ほのかな風味”に気づける脳に戻っていきます。
ですので最初は小さな一歩でいいのです。
- 5分だけ読書する
- 1駅だけ歩く
- 少しだけ料理をしてみる
それが積み重なって、やがてあなたの脳の中に「新しい回路」ができあがります。
まとめ|空白を恐れず、未来のための「新しい習慣」を作ろう
ポイント
- ギャンブル依存は「空白」ができると元に戻りやすい
- 代替行動は「やめた後の空白を埋めるもの」ではなく「やめるために先に用意する脳の新しい回路」
- 脳は空白を嫌い、快感を求め、意識は一点集中しやすい特性がある
- だからこそ、先に意識の焦点を「別の行動」に向けることが重要
- 小さな行動でも、繰り返せば快感回路として育つ
- 我慢でやめるのではなく、代わりの快感で乗り換える感覚が大切
このSTEPで分かること
- 「代替行動」は空白対策ではなく、快感回路の新設工事であると理解できる
- ギャンブル依存の脳は「つまらなく感じて当然」と知ることで自己否定が減る
- 新しい刺激は、最初は弱くても“続けることで快感”になっていく仕組みがわかる
- 「空白に飲み込まれる前に」「小さく始めること」の意味が腑に落ちる
- “未来に向けた脳づくり”という前向きなイメージでスタートが切れる
次回(STEP4-2)
次は「代替行動を選ぶ(リスト80選)」方法を解説します。
関連記事
- STEP 4-1【代替行動の目的とは?】 ←今ココ
- STEP 4-2【代替行動を選ぶ】
- STEP 4-3【代替行動を習慣にするコツ】
- STEP 4-4【代替行動が続かない】
- STEP 4-5【代替行動を始める準備】(STEP4まとめ)
シリーズ全体の流れを確認したい方はこちら。
このサイトが大切にしていること
「この世界は、生きづらいものだ」と思っていた過去があります。
でも今は、そう感じていたのは“思考の仕組み”が乱れていただけだったんだと気づきました。
このサイト「脱出思考」では、機械保全士として培った現実重視の“整備の視点”をベースに、脳科学や心理学の知識、そして僕自身の体験をもとに、思考や感情を“仕組み”として捉えるヒントをお届けしています。
よければ他の記事も覗いてみてくださいね。
参考・出典
- 厚生労働省,依存症についてもっと知りたい方へ,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149274.html - 厚生労働省,依存症対策,2025/4/21
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html - 厚生労働省,ギャンブル依存症の理解と相談支援の視点2025/4/23
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633402.pdf - 国立大学法人京都大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構ギャンブル依存症の神経メカニズム―前頭葉の一部の活動や結合の低下でリスクの取り方の柔軟性に障害―,2025/4/23
https://www.amed.go.jp/news/release_20170404-02.html